看護実習で患者さんを受け持ったとき、カルテに並ぶたくさんの検査データを見て「何から確認すればいいの…?」と困ったことはありませんか?
WBC、Hb、PLT、AST、ALT、Cr、Na、K…アルファベットと数字の羅列を前に、頭が真っ白になってしまう看護学生は少なくありません。
✅ こんな悩みはありませんか?
- 検査データの基準値を覚えられない…
- 異常値を見つけても、どう解釈すればいいかわからない…
- 実習記録にどう書けばいいか、いつも迷ってしまう…
- 指導者さんに「この数値の意味わかる?」と聞かれて答えられない…
- 国試の過去問で検査データの問題が解けない…
でも大丈夫です!この記事を読めば、実習で本当に必要な検査データの見方が、初心者でも理解できるようになります。

この記事で学べること
📚 この記事の内容
- CBC(血算) – WBC、RBC、Hb、Ht、PLTの見方と異常時の対応
- 生化学検査 – 肝機能(AST・ALT・γ-GTP)、腎機能(BUN・Cr・eGFR)、電解質(Na・K)、栄養(TP・Alb)、炎症(CRP)
- 凝固系検査 – PT、APTT、D-dimerの意味と使い方
- 血糖関連検査 – 血糖値、HbA1cの見方と糖尿病管理
- 実習記録の書き方 – アセスメントの具体例とテンプレート
- 国試対策 – 過去問によく出る重要ポイント
検査データを理解する3つのステップ
検査データを効率的に理解するために、以下の3ステップを意識しましょう。
🎯 検査データ理解の3ステップ
- 基準値を知る – 正常範囲を覚える
- 異常を見つける – 高い/低いを判断する
- 意味を理解する – 患者さんにどう影響するか考える

それでは、実習で最も重要な検査データから順番に見ていきましょう!
- 実習前に押さえたい!血液検査データの基本分類
- 実習で絶対使う検査データ一覧
- CBC(血算)検査 – 感染症や貧血を見抜く
- 生化学検査 – 臓器機能を読み解く
- 肝機能検査(AST・ALT・γ-GTP)
- AST・ALT・γ-GTPの違いと特徴
- AST/ALT比で病態を推測
- 肝機能検査高値の原因
- 肝障害の重症度判定
- 肝障害患者さんの観察ポイント
- 実習記録への書き方例
- 腎機能検査(BUN・Cr・eGFR)
- BUN・Cr・eGFRの違いと特徴
- BUN/Cr比で原因を推測
- eGFRによる慢性腎臓病(CKD)のステージ分類
- 腎機能障害の原因
- 腎機能障害患者さんの観察ポイント
- 腎機能低下時の看護のポイント
- 実習記録への書き方例
- 電解質検査(Na・K・Cl)
- ナトリウム(Na)の異常
- カリウム(K)の異常 – 最も注意が必要!
- カリウム異常時の心電図変化
- 電解質異常患者さんの看護ポイント
- 実習記録への書き方例
- 栄養状態の評価(TP・Alb)
- TP・Albの違いと特徴
- アルブミン値による栄養状態の分類
- TP・Alb低値の原因
- 低アルブミン血症による影響
- 炎症反応の指標(CRP)
- CRP値による炎症の程度
- CRPとWBCの組み合わせで見る
- 実習記録への書き方例
- 凝固系検査 – 出血リスクを評価
- 血糖・糖尿病関連検査 – 血糖コントロールを評価
- 検査データを実習で活用する方法
- もっと実習で結果を出したいあなたへ
実習前に押さえたい!血液検査データの基本分類
血液検査には多くの項目がありますが、大きく分けると3つのカテゴリーに分類されます。この分類を理解しておくだけで、検査データの全体像が見えてきます!

血液検査の3大分類
血液検査は以下の3つに大別されます。それぞれの役割を理解しましょう。
分類 | 主な検査項目 | 何が分かる? |
---|---|---|
CBC(血算) | WBC、RBC、Hb、Ht、PLT | 貧血・感染症・出血傾向 |
生化学検査 | AST、ALT、BUN、Cr、TP、Alb、Na、K、CRP | 肝機能・腎機能・栄養状態・電解質バランス・炎症 |
凝固系検査 | PT、APTT、INR、D-dimer | 血液の固まりやすさ・出血リスク・血栓リスク |

①CBC(Complete Blood Count:血算)検査とは?
CBCは「血球計算」を意味し、血液中の細胞成分を調べる検査です。全ての患者さんで基本的に行われるため、実習で最も頻繁に目にする検査データです。
CBCで分かること
- 感染症の有無 – 白血球(WBC)の数値から判断
- 貧血の程度 – 赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)から判断
- 出血のリスク – 血小板(PLT)の数値から判断
②生化学検査とは?
血液中の化学成分を分析する検査で、臓器の機能や身体の代謝状態を評価します。項目が多いため、患者さんの疾患に応じて必要な項目が選ばれます。
生化学検査で分かること
- 肝臓の機能 – AST、ALT、γ-GTPなど
- 腎臓の機能 – BUN、Cr、eGFRなど
- 栄養状態 – TP(総蛋白)、Alb(アルブミン)
- 電解質バランス – Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Cl(クロール)
- 炎症の程度 – CRP(C反応性蛋白)
③凝固系検査とは?
血液の固まりやすさ(凝固能)を調べる検査です。手術前や抗凝固薬を使用している患者さんで特に重要になります。
凝固系検査で分かること
- 出血しやすさ – PT、APTTの延長で判断
- 血栓のリスク – D-dimerの上昇で判断
- 抗凝固薬の効果 – ワーファリン使用時はPT-INRで管理

実習でよく出会う検査データの組み合わせ
実習では、患者さんの状態に応じて複数の検査データを組み合わせて評価します。以下は代表的な組み合わせです。
患者さんの状態 | 確認する検査データ |
---|---|
発熱がある | CBC(WBC)+ 生化学(CRP) |
息切れがある | CBC(RBC、Hb、Ht) |
むくみがある | 生化学(TP、Alb、BUN、Cr) |
手術前 | CBC(全項目)+ 凝固系(PT、APTT) |

次からは、各分類ごとに具体的な検査項目を詳しく見ていきます!
実習で絶対使う検査データ一覧
ここからは、実習で必ず出会う検査データを一つずつ詳しく解説していきます。正常値だけでなく、異常値の意味と患者さんの状態まで理解できるようになりましょう!

CBC(血算)検査 – 感染症や貧血を見抜く
CBC検査は、血液中の細胞成分を数える検査です。実習で最も頻繁に確認する検査データなので、しっかり理解しておきましょう!
白血球(WBC:White Blood Cell)の見方
白血球は身体を守る「免疫の戦士」です。感染症や炎症があると増加し、免疫力が低下すると減少します。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
白血球(WBC) | 3,300〜8,600 | /μL |

WBC高値の意味と患者さんの状態
白血球が8,600/μL以上に上昇している場合、以下の状態が考えられます。
WBC高値(白血球増多)で考えられること
- 細菌感染症 – 肺炎、尿路感染症、創部感染など
- 炎症性疾患 – 虫垂炎、胆嚢炎など
- ストレス反応 – 手術後、外傷後、心筋梗塞後など
- 白血病 – 極端に高値の場合(数万〜数十万/μL)
- ステロイド薬の使用 – 薬の副作用で上昇することも

WBC低値の意味と患者さんの状態
白血球が3,300/μL以下に低下している場合、以下の状態が考えられます。
WBC低値(白血球減少)で考えられること
- 抗がん剤治療の副作用 – 化学療法中の患者さんで頻繁に見られる
- 放射線治療の影響 – 骨髄機能が抑制される
- ウイルス感染症 – インフルエンザ、麻疹など
- 再生不良性貧血 – 骨髄の機能低下
- 自己免疫疾患 – 全身性エリテマトーデス(SLE)など
⚠️ 重要な注意点WBCが1,000/μL以下の場合は緊急対応が必要!
白血球が極端に少ない状態(特に好中球が500/μL以下)では、感染症のリスクが非常に高くなります。この状態を「好中球減少症」と呼び、すぐに医師に報告し、感染予防策を徹底する必要があります。
- 個室管理の検討
- マスク着用の徹底
- 生ものの食事制限
- 面会制限
白血球分画も確認しよう
WBCの数値だけでなく、白血球分画(DIFF)も一緒に見ることで、より詳しい情報が得られます。
白血球の種類 | 正常値(%) | 増加する主な原因 |
---|---|---|
好中球 | 40〜70% | 細菌感染、炎症 |
リンパ球 | 25〜45% | ウイルス感染、白血病 |
単球 | 3〜8% | 結核、慢性感染症 |
好酸球 | 1〜5% | アレルギー、寄生虫感染 |
好塩基球 | 0〜1% | アレルギー反応 |

実習記録への書き方例
検査データを実習記録に書く時は、数値だけでなく、その意味と患者さんの状態を関連付けることが大切です。
実習記録の書き方例❌ 悪い例(数値のみ)
「WBC 12,000/μL、高値である。」
⭕ 良い例(アセスメントを含む)
「WBC 12,000/μL(基準値:3,300〜8,600)と高値を示している。本日の体温は38.2℃、CRPも8.5mg/dLと上昇しており、細菌感染による炎症反応が生じていると考えられる。創部からの膿性分泌物も認められることから、創部感染の可能性が高い。今後、抗菌薬投与後のWBCとCRPの推移を観察し、感染のコントロール状況を評価する必要がある。」

赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット(RBC・Hb・Ht)の見方
赤血球関連の検査は、貧血の診断と評価に欠かせない項目です。この3つはセットで確認することで、貧血の程度や種類を判断できます。
項目 | 正常値(男性) | 正常値(女性) | 単位 |
---|---|---|---|
赤血球(RBC) | 430〜570 | 380〜500 | 万/μL |
ヘモグロビン(Hb) | 13.5〜17.5 | 11.5〜15.0 | g/dL |
ヘマトクリット(Ht) | 39〜52 | 34〜45 | % |

RBC・Hb・Htの違いと役割
3つの項目の違い
- 赤血球(RBC) – 赤血球の「数」を数えたもの
- ヘモグロビン(Hb) – 赤血球の中の酸素を運ぶ「タンパク質の量」
- ヘマトクリット(Ht) – 血液全体に占める赤血球の「体積の割合」

貧血の重症度分類
ヘモグロビン値によって、貧血の重症度を分類できます。
重症度 | Hb値(g/dL) | 症状 |
---|---|---|
正常 | 男性13.5以上 女性11.5以上 |
症状なし |
軽度貧血 | 10〜12 | 軽い疲労感、動悸 |
中等度貧血 | 8〜10 | 息切れ、動悸、めまい、倦怠感 |
高度貧血 | 6〜8 | 強い倦怠感、動悸、頭痛、顔面蒼白 |
最重症貧血 | 6未満 | 心不全リスク、輸血適応 |
⚠️ 緊急対応が必要な場合Hb 7.0 g/dL以下の場合、輸血の適応を検討します。特に急速に貧血が進行した場合や、心疾患を持つ患者さんでは、Hb 8.0 g/dL以下でも輸血を検討することがあります。
RBC・Hb・Ht低値の原因
貧血の主な原因
- 鉄欠乏性貧血 – 最も多い。月経過多、消化管出血、鉄分不足
- 急性出血 – 手術後、外傷、消化管出血
- 慢性疾患による貧血 – がん、腎不全、慢性炎症
- 溶血性貧血 – 赤血球が壊れやすくなる病気
- 再生不良性貧血 – 骨髄で赤血球が作られなくなる
- ビタミンB12・葉酸欠乏 – 巨赤芽球性貧血
RBC・Hb・Ht高値の原因
逆に赤血球が増えすぎる場合もあります。
赤血球増多の主な原因
- 脱水 – 血液が濃縮されて相対的に増加(見かけ上の増加)
- 喫煙 – 慢性的な酸素不足により代償的に増加
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD) – 酸素不足による代償
- 高地居住 – 低酸素環境への適応
- 真性多血症 – 骨髄の病気で赤血球が過剰に作られる

貧血患者さんの観察ポイント
貧血がある患者さんでは、以下の症状に注意して観察します。
観察項目 | 具体的な症状・所見 |
---|---|
自覚症状 | 倦怠感、易疲労感、息切れ、動悸、めまい、頭痛 |
他覚症状 | 顔面蒼白、眼瞼結膜蒼白、爪の変形(スプーン爪) |
バイタルサイン | 頻脈(脈拍増加)、血圧低下(重症時) |
日常生活への影響 | 活動耐性の低下、転倒リスク増加 |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(貧血の場合)⭕ 良い書き方
「Hb 8.2 g/dL(基準値:女性11.5〜15.0)と中等度貧血を認める。RBC 290万/μL、Ht 26.5%も低値であり、貧血の存在が確認できる。患者さんは『階段を上がると息が切れる』『最近疲れやすい』と訴えており、貧血による酸素運搬能の低下が日常生活に影響を及ぼしていると考えられる。本日のバイタルサインでは脈拍92回/分とやや頻脈傾向であり、貧血による代償機転が働いていると推察される。医師の指示により鉄剤内服中であるため、今後Hbの推移を観察し、貧血症状の改善を評価していく必要がある。」

血小板(PLT:Platelet)の見方
血小板は、出血を止める「止血の要」です。手術前や出血傾向のある患者さんでは、必ず確認する重要な項目です。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
血小板(PLT) | 15.0〜35.0 | 万/μL |

血小板減少の重症度と出血リスク
血小板数によって、出血リスクが大きく変わります。
血小板数 | 出血リスク | 注意点 |
---|---|---|
15万以上 | 正常 | 特別な注意は不要 |
10〜15万 | 軽度減少 | 通常は出血リスク低い |
5〜10万 | 中等度減少 | 外傷や手術時に出血しやすい |
2〜5万 | 高度減少 | 皮下出血、鼻出血、歯肉出血が出やすい |
2万未満 | 最重症 | 自然出血のリスク!脳出血の危険も |
⚠️ 緊急対応が必要!血小板2万/μL以下の場合は、自然出血(特に脳出血)のリスクが高く、血小板輸血の適応となります。すぐに医師に報告し、転倒防止などの安全対策を徹底します。
- ベッド柵の設置
- 転倒予防(ベッド周囲の整理整頓)
- 血圧測定は頻回に行わない(内出血のリスク)
- 注射は最小限に、圧迫止血を十分に
- 歯磨きは柔らかいブラシで優しく

PLT低値(血小板減少)の原因
血小板減少の主な原因
- 産生低下(骨髄で作られない)
- 抗がん剤治療の副作用
- 再生不良性貧血
- 白血病
- 骨髄異形成症候群
- 破壊亢進(壊れやすい)
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 播種性血管内凝固症候群(DIC)
- 薬剤性(抗生物質、抗てんかん薬など)
- 消費・喪失
- 大量出血
- 脾臓での捕捉(肝硬変など)
PLT高値(血小板増多)の原因
血小板が増えすぎる場合もあり、血栓のリスクが高まります。
血小板増多の主な原因
- 反応性増加 – 鉄欠乏性貧血、炎症性疾患、悪性腫瘍、手術後
- 本態性血小板血症 – 骨髄の病気で血小板が過剰に作られる
- 脾臓摘出後 – 脾臓で破壊されなくなるため増加

血小板減少患者さんの観察ポイント
血小板が少ない患者さんでは、以下の出血徴候に注意して観察します。
観察部位 | 出血徴候 |
---|---|
皮膚 | 点状出血(紫斑)、内出血、青あざ |
口腔内 | 歯肉出血、口腔内出血 |
鼻 | 鼻出血(鼻血) |
消化管 | 吐血、下血、黒色便 |
尿路 | 血尿 |
眼 | 結膜出血、眼底出血 |
中枢神経 | 頭痛、意識障害(脳出血の可能性) |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(血小板減少の場合)⭕ 良い書き方
「PLT 4.2万/μL(基準値:15.0〜35.0万)と高度の血小板減少を認める。抗がん剤治療による骨髄抑制が原因と考えられる。本日の観察では、両下肢に点状出血を複数認め、歯磨き時に軽度の歯肉出血もみられた。血小板が5万以下であることから、自然出血のリスクが高い状態である。転倒による頭部外傷は重篤な脳出血につながる可能性があるため、ベッド周囲の環境整備を行い、移動時は必ず見守りを行う。また、採血や注射後は最低5分以上の圧迫止血を徹底する。血小板輸血の適応について医師と相談し、今後の血小板数の推移を注意深く観察していく必要がある。」

CBC検査のまとめ
- WBC – 感染症・炎症の指標。高値で細菌感染、低値で免疫力低下
- RBC・Hb・Ht – 貧血の指標。Hbが最重要!
- PLT – 出血リスクの指標。5万以下は要注意、2万以下は緊急対応
この3つをセットで見ることで、患者さんの全身状態が把握できる!
生化学検査 – 臓器機能を読み解く
ここからは生化学検査について学んでいきます。生化学検査は項目が多いですが、臓器別に分けて覚えるとわかりやすくなります!

肝機能検査(AST・ALT・γ-GTP)
肝臓は「身体の化学工場」と呼ばれ、解毒・代謝・合成など多くの機能を持っています。肝機能障害を早期に発見するために、以下の検査が重要です。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
AST(GOT) | 10〜40 | U/L |
ALT(GPT) | 5〜45 | U/L |
γ-GTP | 男性:10〜50 女性:10〜30 |
U/L |

AST・ALT・γ-GTPの違いと特徴
3つの検査の違い
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
- 肝臓だけでなく、心臓・筋肉・赤血球にも存在
- 心筋梗塞や筋肉疾患でも上昇する
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
- 主に肝臓に存在(肝臓特異性が高い)
- 肝障害の指標として最も重要
- γ-GTP(ガンマ・グルタミルトランスペプチダーゼ)
- 肝臓・胆道系に存在
- アルコール性肝障害や胆道系疾患で上昇

AST/ALT比で病態を推測
ASTとALTの比率(AST/ALT比)を見ることで、肝障害の原因を推測できます。
AST/ALT比 | 考えられる病態 |
---|---|
AST < ALT (比率 < 1) |
急性肝炎、脂肪肝 ALTの方が高い=肝細胞の障害が主体 |
AST > ALT (比率 > 1) |
慢性肝炎、肝硬変、アルコール性肝障害 ASTの方が高い=肝臓のダメージが進んでいる |
AST >> ALT (比率 > 2) |
アルコール性肝障害、肝硬変末期 ASTが極端に高い=重症の肝障害 |
肝機能検査高値の原因
AST・ALT上昇の主な原因
- ウイルス性肝炎 – A型、B型、C型肝炎など(数百〜数千まで上昇)
- アルコール性肝障害 – 慢性的な飲酒(γ-GTPも上昇)
- 脂肪肝・NASH – メタボリックシンドローム関連
- 薬剤性肝障害 – 抗生物質、鎮痛薬などの副作用
- 自己免疫性肝炎 – 免疫の異常による肝障害
- 肝硬変 – 進行した慢性肝疾患
- 肝がん – 腫瘍による肝機能低下
γ-GTP高値の特徴的な原因
- アルコール多飲 – 最も頻度が高い
- 胆道系疾患 – 胆石、胆管炎など
- 薬剤の影響 – 抗てんかん薬など

肝障害の重症度判定
AST・ALT値によって、肝障害の程度を分類できます。
重症度 | AST・ALT値 | 臨床的意義 |
---|---|---|
正常 | 〜40 U/L | 肝機能正常 |
軽度上昇 | 40〜100 U/L | 脂肪肝、慢性肝炎初期 |
中等度上昇 | 100〜500 U/L | 慢性肝炎、薬剤性肝障害 |
高度上昇 | 500 U/L以上 | 急性肝炎、劇症肝炎、ショック肝 |
肝障害患者さんの観察ポイント
肝機能が悪化すると、様々な症状が現れます。
肝障害で見られる症状・徴候
- 全身症状 – 倦怠感、食欲不振、体重減少
- 黄疸 – 皮膚・眼球結膜の黄染
- 消化器症状 – 悪心・嘔吐、腹部膨満感
- 出血傾向 – 鼻出血、皮下出血(凝固因子の合成低下)
- 腹水 – 腹部膨満、体重増加
- 浮腫 – 下肢のむくみ(アルブミン低下)
- 意識障害 – 肝性脳症(アンモニアの蓄積)
- 掻痒感 – 胆汁うっ滞による全身のかゆみ
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(肝機能障害の場合)⭕ 良い書き方
「AST 285 U/L、ALT 420 U/L、γ-GTP 180 U/L(基準値:AST 10〜40、ALT 5〜45、γ-GTP 10〜50)といずれも高値を示している。AST/ALT比が0.68(<1)であることから、急性の肝細胞障害が示唆される。γ-GTPも上昇していることから、胆道系の関与も考えられる。患者さんは『最近疲れやすい』『食欲がない』と訴えており、肝機能低下による全身倦怠感と食欲不振が出現していると考えられる。眼球結膜に軽度の黄染を認めることから、ビリルビン値も確認する必要がある。今後、肝機能の推移を注意深く観察し、安静と栄養管理を行うことで肝機能の回復を図る必要がある。」

腎機能検査(BUN・Cr・eGFR)
腎臓は「身体の浄化装置」として老廃物を尿として排泄する重要な臓器です。腎機能の評価には以下の3つの検査が基本となります。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
BUN(尿素窒素) | 8〜20 | mg/dL |
Cr(クレアチニン) | 男性:0.65〜1.07 女性:0.46〜0.79 |
mg/dL |
eGFR(推算糸球体濾過量) | 60以上 | mL/分/1.73m² |

BUN・Cr・eGFRの違いと特徴
3つの検査の違いと特徴
- BUN(Blood Urea Nitrogen:尿素窒素)
- タンパク質が分解されてできる老廃物
- 腎機能以外の影響を受けやすい(脱水、消化管出血、高タンパク食など)
- 変動しやすく、腎機能の「補助的指標」
- Cr(Creatinine:クレアチニン)
- 筋肉から産生される老廃物
- 腎機能を直接反映する(食事の影響を受けにくい)
- 腎機能評価の基本となる最重要項目!
- eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)
- クレアチニン値、年齢、性別から計算される
- 腎臓がどれだけ血液をろ過できるかを示す
- 慢性腎臓病(CKD)の診断・ステージ分類に使用

BUN/Cr比で原因を推測
BUNとクレアチニンの比率を計算することで、腎機能障害の原因を推測できます。
BUN/Cr比 | 考えられる病態 |
---|---|
10以下 | 肝硬変、低タンパク食 尿素の産生が低下している |
10〜20 (正常) |
正常、慢性腎不全 腎臓の機能が均等に低下している |
20以上 | 脱水、消化管出血、心不全、ステロイド使用 腎機能以外の要因でBUNが上昇している |

eGFRによる慢性腎臓病(CKD)のステージ分類
eGFRの値によって、腎機能の低下度を6段階に分類します。
ステージ | eGFR | 重症度 | 状態 |
---|---|---|---|
G1 | 90以上 | 正常または高値 | 腎機能正常 |
G2 | 60〜89 | 正常または軽度低下 | 軽度の腎機能低下 |
G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下 | 定期的な検査が必要 |
G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下 | 専門医での治療が必要 |
G4 | 15〜29 | 高度低下 | 透析準備が必要 |
G5 | 15未満 | 末期腎不全 | 透析または腎移植が必要 |
⚠️ 重要な注意点eGFR 30未満(G4以降)では、薬剤の投与量調整や造影剤使用時の注意が必要です。特にeGFR 15未満(G5)では透析導入を検討する段階です。
腎機能障害の原因
BUN・Cr高値の主な原因
- 急性腎障害(AKI)
- 脱水、ショック、敗血症
- 薬剤性(NSAIDs、抗生物質、造影剤など)
- 尿路閉塞(結石、前立腺肥大など)
- 慢性腎臓病(CKD)
- 糖尿病性腎症(最多)
- 高血圧性腎硬化症
- 慢性糸球体腎炎
- 多発性嚢胞腎
腎機能障害患者さんの観察ポイント
腎機能が低下すると、体内に老廃物が蓄積し、様々な症状が現れます。
腎機能障害で見られる症状・徴候
- 尿の変化 – 尿量減少(乏尿:400mL/日以下)、無尿、夜間頻尿
- 浮腫 – 下肢、顔面のむくみ(特に朝)
- 高血圧 – 体液貯留による血圧上昇
- 電解質異常 – 高カリウム血症(不整脈のリスク)
- 貧血 – エリスロポエチン産生低下
- 全身倦怠感 – 老廃物の蓄積
- 食欲不振・悪心 – 尿毒症症状
- 意識障害 – 重症の尿毒症
腎機能低下時の看護のポイント
管理項目 | 看護のポイント |
---|---|
水分管理 | 尿量測定、体重測定(毎日同条件で)、浮腫の観察 |
食事管理 | タンパク質制限、塩分制限、カリウム制限 |
薬剤管理 | 腎毒性のある薬剤を避ける、投与量調整 |
感染予防 | 免疫力低下に注意、シャント管理(透析患者) |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(腎機能障害の場合)⭕ 良い書き方
「BUN 45 mg/dL、Cr 2.8 mg/dL、eGFR 22 mL/分/1.73m²(基準値:BUN 8〜20、Cr 男性0.65〜1.07、eGFR 60以上)と高度の腎機能低下を認める。eGFRがG4(高度低下)に該当しており、末期腎不全に近い状態である。BUN/Cr比は16と正常範囲内であることから、腎実質性の障害が示唆される。本日の尿量は350mL/日と乏尿傾向であり、両下肢に圧痕性浮腫を認める。体重も前日より1.5kg増加しており、体液貯留が進行していると考えられる。血清カリウム値も5.8 mEq/Lと高値を示しているため、不整脈のリスクがある。今後、透析導入も視野に入れた治療方針となるため、水分制限や食事制限の必要性について患者さんと家族への説明とサポートが必要である。」

電解質検査(Na・K・Cl)
電解質は体液のバランスを保つために欠かせない成分です。特にナトリウム(Na)とカリウム(K)は、生命維持に直結する重要な項目です。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
ナトリウム(Na) | 136〜145 | mEq/L |
カリウム(K) | 3.5〜5.0 | mEq/L |
クロール(Cl) | 98〜108 | mEq/L |

ナトリウム(Na)の異常
ナトリウムは細胞外液の主要な電解質で、体液量と浸透圧を調節しています。
低ナトリウム血症(Na < 136 mEq/L)主な原因:
- 水分過剰摂取、点滴による希釈
- 利尿薬の使用
- SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)
- 心不全、肝硬変、腎不全
- 嘔吐、下痢による喪失
症状:
- 軽度(130〜135):頭痛、悪心、倦怠感
- 中等度(125〜130):意識レベル低下、けいれん
- 重症(125未満):昏睡、呼吸停止のリスク
高ナトリウム血症(Na > 145 mEq/L)主な原因:
- 脱水(水分摂取不足、発熱、下痢、嘔吐)
- 高張液の投与
- 尿崩症
- 意識障害で水分摂取困難
症状:
- 口渇、皮膚粘膜の乾燥
- 意識障害、興奮
- 筋肉の痙攣

カリウム(K)の異常 – 最も注意が必要!
カリウムは心臓の動きに直接影響するため、異常値は生命に関わります。特に実習では必ず確認すべき項目です。
⚠️ 緊急対応が必要!カリウムが6.0 mEq/L以上または3.0 mEq/L以下の場合は、致死性不整脈のリスクがあり、すぐに医師に報告し心電図モニターを装着する必要があります。
低カリウム血症(K < 3.5 mEq/L)主な原因:
- 利尿薬の使用(最も多い)
- 嘔吐、下痢による喪失
- 食事摂取不良
- インスリン投与(細胞内へ移動)
- 原発性アルドステロン症
症状:
- 筋力低下、脱力感
- 便秘、腸閉塞
- 不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍)
- ECG変化:U波出現、ST低下、T波平低化
高カリウム血症(K > 5.0 mEq/L)主な原因:
- 腎不全(最も多い)
- カリウム保持性利尿薬
- ACE阻害薬、ARB
- 大量輸血
- 溶血(採血手技不良、検体の取り扱い不良)
- 横紋筋融解症
症状:
- しびれ感(口周囲、四肢)
- 脱力感
- 致死性不整脈!(心室細動、心停止)
- ECG変化:テント状T波(尖鋭化)、QRS幅拡大、P波消失

カリウム異常時の心電図変化
カリウム値 | 心電図の変化 | 対応 |
---|---|---|
3.5〜5.0 (正常) |
変化なし | 特別な対応不要 |
< 3.5 (低K) |
U波出現、T波平低化、ST低下 | カリウム補充(内服または点滴) |
5.5〜6.5 (軽度高K) |
テント状T波(尖鋭化) | 心電図モニター、原因検索 |
6.5〜7.5 (中等度高K) |
QRS幅拡大、P波低下 | グルコン酸カルシウム投与準備 |
> 7.5 (重症高K) |
P波消失、sine wave(正弦波) | 緊急透析の適応! |
電解質異常患者さんの看護ポイント
電解質 | 観察項目 | 看護のポイント |
---|---|---|
低Na | 意識レベル、水分バランス、体重 | 水分制限、急速補正は避ける |
高Na | 口渇、皮膚乾燥、意識レベル | 水分補給、脱水予防 |
低K | 筋力、心電図、不整脈の有無 | カリウム補充、転倒予防 |
高K | 心電図モニター、しびれ感 | カリウム制限食、緊急対応準備 |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(高カリウム血症の場合)⭕ 良い書き方
「K 6.2 mEq/L(基準値:3.5〜5.0)と高カリウム血症を認める。腎不全(Cr 3.2 mg/dL、eGFR 18)による腎からのカリウム排泄低下が原因と考えられる。高カリウム血症は致死性不整脈を引き起こすリスクがあるため、心電図モニターを装着し継続的に観察している。本日の心電図ではT波のやや尖鋭化を認めるが、QRS幅の拡大やP波の消失は認めていない。患者さんに四肢のしびれ感はないか確認したところ『手足の先が少しピリピリする』との訴えがあった。カリウム値が6.0を超えているため医師に報告し、グルコン酸カルシウムの準備を行った。今後、透析導入も視野に入れた治療となるため、カリウム制限食の指導と、緊急時の対応について患者さんと家族に説明する必要がある。」

栄養状態の評価(TP・Alb)
栄養状態は創傷治癒や感染抵抗力に直結する重要な指標です。総蛋白(TP)とアルブミン(Alb)で評価します。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
総蛋白(TP) | 6.6〜8.1 | g/dL |
アルブミン(Alb) | 4.1〜5.1 | g/dL |

TP・Albの違いと特徴
TPとAlbの違い
- 総蛋白(TP)
- 血液中のすべてのタンパク質の総量
- アルブミン + グロブリン
- 全体的な栄養状態の指標
- アルブミン(Alb)
- 肝臓で作られる最も重要なタンパク質
- 血液中のタンパク質の約60%を占める
- 栄養評価の最重要指標!
- 浸透圧の維持(血管内に水分を保持)

アルブミン値による栄養状態の分類
Alb値(g/dL) | 栄養状態 | 臨床的意義 |
---|---|---|
4.0以上 | 正常 | 栄養状態良好 |
3.5〜3.9 | 軽度低栄養 | 栄養介入の検討 |
3.0〜3.4 | 中等度低栄養 | 創傷治癒遅延、感染リスク増加 |
2.5〜2.9 | 高度低栄養 | 浮腫出現、重度の免疫力低下 |
2.5未満 | 最重症低栄養 | 生命の危機、積極的な栄養介入必須 |
TP・Alb低値の原因
低蛋白血症の主な原因
- 摂取不足 – 食欲不振、嚥下障害、絶食期間が長い
- 消化吸収障害 – 下痢、吸収不良症候群
- 合成低下 – 肝硬変、肝不全(肝臓で作られない)
- 喪失増加 – ネフローゼ症候群(尿から漏れる)、熱傷、出血
- 消費亢進 – がん、感染症、手術後、炎症性疾患
低アルブミン血症による影響
アルブミンが低下すると、様々な問題が生じます。
Alb低下で起こる問題
- 浮腫・腹水 – 血管内の水分保持ができず、組織に水が溜まる
- 創傷治癒遅延 – 手術後の傷が治りにくい、褥瘡ができやすい
- 感染リスク増加 – 免疫機能の低下
- 筋肉量減少 – サルコペニア、廃用症候群
- 薬剤の作用変化 – アルブミンと結合する薬剤の効果が変わる

炎症反応の指標(CRP)
CRP(C反応性蛋白)は、炎症や組織の破壊があると上昇する検査です。感染症の診断や治療効果の判定に使います。
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
CRP | 0.3以下 | mg/dL |
CRP値による炎症の程度
CRP値(mg/dL) | 炎症の程度 | 考えられる状態 |
---|---|---|
0.3以下 | 正常 | 炎症なし |
0.3〜1.0 | 軽度上昇 | 軽度の炎症、ウイルス感染初期 |
1.0〜10.0 | 中等度上昇 | 細菌感染症、手術後、外傷 |
10.0以上 | 高度上昇 | 重症感染症、敗血症、広範囲熱傷 |
CRPとWBCの組み合わせで見る
CRPはWBC(白血球)と組み合わせて判断することで、より正確に感染症を評価できます。
WBC | CRP | 考えられる状態 |
---|---|---|
正常 | 正常 | 感染症なし |
↑ 高値 | ↑ 高値 | 細菌感染症の可能性が高い |
正常〜↓ | ↑ 高値 | ウイルス感染、または免疫力低下 |
↑ 高値 | 正常 | ストレス反応、ステロイド使用 |

実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(低栄養+炎症の場合)⭕ 良い書き方
「TP 5.2 g/dL、Alb 2.8 g/dL(基準値:TP 6.6〜8.1、Alb 4.1〜5.1)と低蛋白血症を認める。Albが3.0以下であることから、高度の低栄養状態にあると判断できる。また、WBC 13,500/μL、CRP 8.5 mg/dLと炎症反応も高値を示しており、感染症による炎症とタンパク質の消費亢進が栄養状態の悪化に関与していると考えられる。身体所見では、両下肢に圧痕性浮腫を認め、血管内の膠質浸透圧低下による体液の血管外漏出が生じている。創部の治癒も遅延しており、低栄養による創傷治癒能の低下が影響していると考えられる。感染のコントロールと同時に、積極的な栄養介入(高カロリー・高タンパク食の提供)が必要である。管理栄養士と連携し、患者さんの嗜好に合わせた食事内容の調整を行う。」

生化学検査のまとめ
- 肝機能(AST・ALT・γ-GTP) – 肝臓のダメージを評価。ALTが最重要!
- 腎機能(BUN・Cr・eGFR) – 腎臓の働きを評価。CrとeGFRをセットで見る!
- 電解質(Na・K・Cl) – Kの異常は命に関わる!6.0以上は緊急対応
- 栄養(TP・Alb) – Alb 3.0以下は高度低栄養。創傷治癒に影響
- 炎症(CRP) – WBCと組み合わせて感染症を評価
凝固系検査 – 出血リスクを評価
凝固系検査は、血液の固まりやすさを調べる検査です。手術前や抗凝固薬を使用している患者さんでは必ず確認します。

主な凝固系検査項目
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
PT(プロトロンビン時間) | 10〜13 | 秒 |
PT-INR | 0.9〜1.1 | ― |
APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間) | 25〜40 | 秒 |
D-dimer(Dダイマー) | 1.0未満 | μg/mL |

各検査の意味と役割
凝固系検査の役割
- PT(プロトロンビン時間)
- 外因系凝固能を評価
- ワーファリンの効果モニタリングに使用
- 肝臓での凝固因子合成能を反映
- PT-INR
- PTを標準化した値(施設間で比較可能)
- ワーファリン治療時の目標値を設定
- APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
- 内因系凝固能を評価
- ヘパリンの効果モニタリングに使用
- 血友病のスクリーニング
- D-dimer(Dダイマー)
- 血栓が溶けた時にできる分解産物
- 血栓症の診断(深部静脈血栓症、肺塞栓症)
- DIC(播種性血管内凝固症候群)の診断

PT-INRの治療域
ワーファリン(抗凝固薬)を服用している患者さんでは、PT-INRを定期的に測定し、適切な範囲にコントロールします。
疾患 | PT-INR目標値 | リスク |
---|---|---|
心房細動 | 2.0〜3.0 | 脳梗塞予防 |
人工弁置換術後 | 2.0〜3.0 | 弁血栓予防 |
深部静脈血栓症 | 2.0〜3.0 | 血栓の再発予防 |
⚠️ 重要な注意点PT-INRが目標範囲から外れると危険!
- INR < 2.0(低すぎる) → 血栓ができやすい(脳梗塞リスク↑)
- INR > 3.0(高すぎる) → 出血しやすい(脳出血リスク↑)
範囲を外れている場合は、すぐに医師に報告し、ワーファリンの用量調整が必要です。
PT・APTT延長の原因
PT・APTT延長(出血しやすい)の原因
- 抗凝固薬の使用
- ワーファリン → PT延長
- ヘパリン → APTT延長
- 肝機能障害 – 凝固因子の合成低下(肝硬変、肝不全)
- ビタミンK欠乏 – 長期絶食、抗生物質の長期使用
- DIC – 凝固因子の消費
- 血友病 – 凝固因子の先天的欠損(APTT延長)
D-dimer高値の意味
D-dimerは血栓が溶けた時にできる物質なので、高値=体のどこかに血栓がある可能性を示します。
D-dimer高値(1.0 μg/mL以上)の原因
- 深部静脈血栓症(DVT) – 下肢の静脈に血栓
- 肺塞栓症(PE) – 肺の血管に血栓(緊急対応!)
- 播種性血管内凝固症候群(DIC) – 全身の血管内で血栓形成
- 手術後、外傷後 – 組織の損傷
- がん – 悪性腫瘍
- 妊娠、高齢 – 生理的に上昇

凝固異常患者さんの観察ポイント
異常 | 観察項目 | 看護のポイント |
---|---|---|
PT・APTT延長 (出血傾向) |
皮下出血、鼻出血、歯肉出血、血尿、黒色便 | 転倒予防、柔らかい歯ブラシ使用、採血後の圧迫止血徹底 |
D-dimer高値 (血栓傾向) |
下肢の腫脹・疼痛、呼吸困難、胸痛、SpO₂低下 | 早期離床、弾性ストッキング着用、水分摂取促進 |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(ワーファリン服用中の場合)⭕ 良い書き方
「PT 18.5秒、PT-INR 2.5(基準値:PT 10〜13秒、PT-INR 0.9〜1.1、治療域:INR 2.0〜3.0)とPTが延長しているが、ワーファリン服用中であり、心房細動に対する抗凝固療法の治療域(INR 2.0〜3.0)内にコントロールされている。適切な抗凝固療法が行われていることで、脳梗塞のリスクが低減されていると評価できる。一方で、出血のリスクも高い状態であるため、皮下出血や歯肉出血などの出血徴候の観察を継続する必要がある。本日の観察では、明らかな出血傾向は認めていない。今後もPT-INRが治療域を維持できるよう、ワーファリンの内服状況や相互作用のある食品(納豆、青汁など)の摂取について確認していく。」
実習記録の書き方例(D-dimer高値の場合)⭕ 良い書き方
「D-dimer 5.8 μg/mL(基準値:1.0未満)と著明な高値を示している。手術後3日目であり、術後の血栓形成が示唆される。本日の観察では、左下肢に軽度の腫脹を認め、患者さんは『左足がだるい』と訴えている。深部静脈血栓症(DVT)の可能性があるため、医師に報告し、下肢静脈エコー検査の指示が出た。術後の臥床期間が長く、血流うっ滞が生じやすい状態であったことがリスク因子と考えられる。今後、血栓の進展や肺塞栓症への移行を予防するため、早期離床を促進し、弾性ストッキングの着用を継続する。また、呼吸困難や胸痛などの肺塞栓症の症状出現に注意して観察していく必要がある。」

凝固系検査のまとめ
- PT・PT-INR – ワーファリンの効果をモニタリング。治療域を維持!
- APTT – ヘパリンの効果をモニタリング
- D-dimer – 血栓の有無を評価。高値は血栓症を疑う
- 延長 = 出血リスク、D-dimer高値 = 血栓リスクと覚えよう!
血糖・糖尿病関連検査 – 血糖コントロールを評価
糖尿病は国民病とも言われる非常に多い疾患です。血糖コントロールの評価は、看護師にとって必須の知識です。

主な血糖関連検査項目
項目 | 正常値 | 単位 |
---|---|---|
空腹時血糖(FBS) | 70〜109 | mg/dL |
随時血糖 | < 140 | mg/dL |
HbA1c(ヘモグロビンA1c) | 4.6〜6.2 | % |

血糖値とHbA1cの違い
血糖値とHbA1cの違い
- 血糖値(Glucose)
- その瞬間の血液中の糖の濃度
- 食事や運動で大きく変動する
- 「今の状態」を反映
- 低血糖・高血糖の判断に使う
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
- 過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映
- 食事の影響を受けない
- 「長期的なコントロール状況」を反映
- 糖尿病の診断と治療効果判定に最重要!

糖尿病の診断基準
以下のいずれかを満たす場合、糖尿病と診断されます。
検査項目 | 糖尿病型の基準 |
---|---|
空腹時血糖 | 126 mg/dL以上 |
75g糖負荷試験2時間値 | 200 mg/dL以上 |
随時血糖 | 200 mg/dL以上 |
HbA1c | 6.5%以上 |
HbA1cによる血糖コントロール評価
糖尿病患者さんのHbA1cは、合併症予防のために7.0%未満を目標とします。
HbA1c(%) | 評価 | 意味 |
---|---|---|
< 6.0% | 優 | 血糖コントロール良好 |
6.0〜6.9% | 良 | 目標達成(合併症予防レベル) |
7.0〜7.9% | 可 | 治療強化の検討が必要 |
8.0〜8.9% | 不可 | 合併症のリスクが高い |
9.0%以上 | 不良 | 早急な治療介入が必要 |
低血糖と高血糖の症状と対応
⚠️ 低血糖(血糖値 < 70 mg/dL)- 緊急対応!症状:
- 冷汗、動悸、手の震え
- 空腹感、脱力感
- 意識障害、けいれん(重症時)
対応:
- 意識がある → ブドウ糖10g(または砂糖20g、ジュース150mL)を摂取
- 意識がない → すぐに医師に報告、ブドウ糖静注の準備
- 15分後に再測定し、70 mg/dL未満なら再度摂取
高血糖(血糖値 > 250 mg/dL)症状:
- 口渇、多飲、多尿
- 倦怠感、体重減少
- 意識障害(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群)
対応:
- 血糖値350 mg/dL以上 → 医師に報告
- 尿ケトン体測定
- インスリン投与の準備
- 意識障害があれば緊急対応

糖尿病の慢性合併症
血糖コントロールが不良だと、様々な合併症が起こります。
糖尿病の3大合併症(覚え方:「しめじ」)
- し – 神経障害(しびれ、痛み、自律神経障害)
- め – 網膜症(失明の原因)
- じ – 腎症(透析の原因第1位)
その他の合併症(覚え方:「えのき」)
- え – 壊疽(足の壊死)
- の – 脳梗塞
- き – 虚血性心疾患(心筋梗塞)
糖尿病患者さんの観察ポイント
観察項目 | 具体的な観察内容 |
---|---|
血糖値 | 食前・食後の血糖測定、低血糖症状の有無 |
自覚症状 | 口渇、多飲、多尿、体重変化、倦怠感 |
合併症 | 足の観察(傷・感覚障害)、視力、尿タンパク |
生活習慣 | 食事内容、運動習慣、薬の飲み忘れ |
セルフケア | 血糖測定の手技、インスリン注射の手技 |
実習記録への書き方例
実習記録の書き方例(血糖コントロール不良の場合)⭕ 良い書き方
「空腹時血糖 185 mg/dL、HbA1c 8.5%(基準値:FBS 70〜109、HbA1c 4.6〜6.2)と高血糖状態が持続しており、血糖コントロールは不良である。HbA1cが8.5%であることから、過去1〜2ヶ月にわたり高血糖状態が続いていたと推察され、合併症のリスクが高い状態にある。患者さんは『喉が渇いて水ばかり飲んでいる』『トイレの回数が増えた』と訴えており、高血糖による多飲・多尿の症状が出現している。また、両足底にしびれ感があり、糖尿病性神経障害の可能性も考えられる。今後、血糖コントロールの改善のために、食事療法と運動療法の重要性について患者教育を行う必要がある。また、合併症の早期発見のため、定期的な眼底検査や尿検査の受診を促していく。」

血糖検査のまとめ
- 血糖値 – その瞬間の血糖。低血糖(<70)は緊急対応!
- HbA1c – 過去1〜2ヶ月の平均血糖。7.0%未満が目標
- 糖尿病診断 – FBS≧126 または HbA1c≧6.5%
- 合併症 – しめじ(神経・網膜・腎)、えのき(壊疽・脳・心)
検査データを実習で活用する方法
ここまで多くの検査データについて学んできました。最後に、実習でどのように活用するか、具体的な方法をお伝えします。

実習初日にやるべきこと – 検査データの確認手順
患者さんを受け持ったら、まず以下の順番で検査データを確認しましょう。
実習初日の検査データ確認チェックリスト
- CBC(血算) – WBC、RBC、Hb、Ht、PLT
- → 感染・貧血・出血リスクを評価
- 生化学検査
- 肝機能:AST、ALT、γ-GTP
- 腎機能:BUN、Cr、eGFR
- 電解質:Na、K、Cl
- 栄養:TP、Alb
- 炎症:CRP
- 血糖関連 – 血糖値、HbA1c(糖尿病患者の場合)
- 凝固系 – PT、APTT、D-dimer(抗凝固薬使用時、術後など)
検査データから看護問題を導く思考プロセス
検査データを見て、どのように看護問題につなげるかの具体例を示します。
検査データ | アセスメント | 看護問題 |
---|---|---|
WBC 15,000 CRP 10.5 |
細菌感染症の可能性が高い | 感染リスク状態 |
Hb 8.5 疲労感あり |
中等度貧血により活動耐性低下 | 活動耐性低下 |
PLT 3.5万 皮下出血あり |
高度血小板減少により出血傾向 | 出血リスク状態 |
Alb 2.6 浮腫あり |
高度低栄養、創傷治癒遅延 | 栄養摂取消費バランス異常 |
K 6.3 しびれ感 |
高カリウム血症、不整脈リスク | 心拍出量減少リスク状態 |
Cr 3.5 eGFR 15 尿量減少 |
腎不全による体液貯留 | 体液量過剰 |

検査データの推移を見る重要性
1回の検査データだけでなく、時系列での変化を見ることで、治療効果や病状の変化がわかります。
推移を見る時のポイント
- 改善傾向
- CRP 12.5 → 8.2 → 4.5(感染症が治まってきている)
- Cr 2.8 → 2.3 → 1.8(腎機能が回復してきている)
- 悪化傾向
- WBC 12,000 → 15,000 → 18,000(感染が悪化している)
- Hb 10.5 → 9.2 → 8.3(貧血が進行している)
- 変化なし
- 治療効果が不十分、または慢性的な状態
実習記録に使える!検査データアセスメントのテンプレート
実習記録テンプレート【検査データのアセスメント】
①データ提示:「○○は△△(基準値:□□)と××を示している。」
②解釈:「このことから、~~が示唆される。」
③原因分析:「原因として、~~が考えられる。」
④症状との関連:「患者さんは『~』と訴えており、○○による△△が影響していると考えられる。」
⑤看護の方向性:「今後、~~を観察し、△△の看護介入が必要である。」
よくある実習での質問とその答え


まとめ – 検査データを味方につけよう
この記事で学んだ重要ポイント総まとめ
- CBC(血算)
- WBC:感染・炎症の指標。10,000以上で細菌感染疑う
- Hb:貧血の指標。最重要!
- PLT:出血リスク。5万以下は要注意
- 生化学検査
- AST・ALT:肝機能。ALTが肝臓に特異的
- Cr・eGFR:腎機能。セットで評価
- Na・K:電解質。Kは命に関わる!6.0以上は緊急
- Alb:栄養状態。3.0以下は高度低栄養
- CRP:炎症の指標。WBCと組み合わせて評価
- 凝固系
- PT-INR:ワーファリンの効果判定
- D-dimer:血栓症の診断
- 血糖
- 血糖値:今の状態。70以下は低血糖で緊急対応
- HbA1c:過去1〜2ヶ月の平均。7.0%未満が目標

もっと実習で結果を出したいあなたへ
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!この記事で検査データの基本は理解できたと思いますが、「実習で実際に使えるかどうか」はまた別の話ですよね。
✅ こんな悩みはありませんか?
- 検査データは理解できたけど、記録にどう書けばいいかわからない…
- アセスメントがうまく書けなくて、いつも指導者さんに指摘される…
- 関連図や看護計画の立て方がわからず、毎回徹夜してしまう…
- 実習中の不安や悩みを相談できる人がいない…
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実は、僕も学生時代は同じ悩みを抱えていました。検査データの意味はわかっても、それを「患者さんの看護」に繋げることができず、何度も記録をやり直した経験があります。
そんな経験から、「看護学生が本当に必要としているサポート」を提供したいと思い、Nurse Path+というオンラインスクールを運営しています。
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最後に – あなたへのメッセージ
看護学生の道は決して楽ではありません。実習、記録、国家試験…乗り越えなければならない壁はたくさんあります。
でも、その先には「看護師」という素晴らしい職業が待っています。患者さんの笑顔、「ありがとう」という言葉、そして自分の成長を実感できる瞬間。それらはきっと、今の苦労を補って余りあるものになるはずです。
あなたは一人じゃない。Nurse Path+には、同じように頑張っている仲間がたくさんいます。一緒に看護師への道を歩んでいきましょう。
応援してます!
Nurse Path+ かず学長
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